(Q1)被保護世帯の世帯主の伯父が死亡し、家屋を1戸遺贈されました。現在、その世帯は借家に住んでおり、毎月家賃を支払っています。現在の住居はかなり老朽化しており、遺贈された家屋と比べると状態が悪いです。このような場合、遺贈された家屋に移転することは認められますか?(Q2)遺贈された家屋は、世帯の家族構成にも適しており、世帯主の通勤にも便利な場所にあります。この状況下で、現住居から遺贈された家屋への移転を希望する場合、どのような取り扱いとなりますか?
(A1)遺贈された家屋が、世帯の人数や生活状況に見合った住宅であり、処分価値が著しく高くなく、安全に居住できる状態であれば、借家からその家屋へ移転することが認められる可能性があります。
むしろ、現在支払っている家賃が不要になり、生活保護費の住宅扶助を節減できるのであれば、遺贈された家屋を自宅として活用することが合理的と判断される場合があります。
ただし、遺贈されたからといって、本人の判断だけですぐ転居できるわけではありません。まず福祉事務所へ申告し、家屋の価値、状態、維持費などの確認を受ける必要があります。
1.遺贈された家屋は必ず福祉事務所へ申告する
生活保護受給中に家屋を遺贈された場合、その家屋は新たに取得した資産です。
生活保護では、利用できる資産は最低生活の維持のために活用することが原則です。そのため、遺言書、登記事項証明書、固定資産税の資料などを提出し、速やかに福祉事務所へ届け出る必要があります。
申告せずに所有や売却を隠した場合は、後から保護費の返還・徴収の問題になる可能性があります。
2.自宅として使用する家屋は保有が認められることがある
厚生労働省の実施要領では、被保護世帯が居住するために使用する家屋は、原則として保有を認めるとされています。
ただし、売却した場合の価値が、住居として使用する価値に比べて著しく高い家屋については、保有が認められず、売却による資産活用を求められることがあります。
したがって、今回の家屋については、次のように判断されます。
| 遺贈された家屋の状況 | 考えられる取扱い |
|---|---|
| 世帯人数に見合う一般的な住宅 | 移転・保有が認められる可能性が高い |
| 現在の借家より安全で良好な状態 | 移転を認める方向の事情になる |
| 家賃が不要になり住宅扶助を節減できる | 移転の合理性が認められやすい |
| 豪邸、広大な土地付きなど高額な物件 | 売却を求められる可能性がある |
| 大規模な修繕が必要 | 修繕費や安全性を含めて慎重に判断 |
| 遠隔地で通院・介護などに支障がある | 必ずしも移転が適当とは限らない |
3.現在の借家が老朽化していることは移転に有利な事情になる
現在の借家がかなり老朽化しており、遺贈された家屋の方が安全で生活に適している場合は、移転を認める合理的な理由になります。
特に、
- 雨漏りや腐食などで安全性に問題がある
- 段差が多く、高齢者や障害者には危険である
- 遺贈された家屋の方が通院や日常生活に適している
- 移転後は家賃負担がなくなる
という事情があれば、福祉事務所も移転を前向きに検討しやすいと考えられます。
4.家屋の価格が高すぎる場合は売却を求められる
遺贈された家屋が非常に高額で、売却すれば長期間生活できるほどの資金が得られる場合は、そのまま住むことよりも、売却して生活費に充てるよう求められる可能性があります。
判断に当たっては、固定資産税評価額だけでなく、
- 実際の市場価格
- 売却可能性
- 土地・建物の広さ
- 地域の一般的な住宅水準
- 世帯人数
- 家屋を売却した場合に残る金額
- 居住によって節減できる家賃
などが総合的に考慮されます。居住用の持ち家は保有可能な場合がありますが、処分価値が利用価値に比べて著しく大きい場合は例外です。
5.移転前に確認される事項
福祉事務所は、おおむね次の点を確認します。
- 遺贈が有効で、所有権を取得できるか
- 相続人や他の受遺者との争いがないか
- 抵当権、差押え、共有持分などがないか
- 家屋が安全に居住できる状態か
- 修繕費が過大でないか
- 固定資産税や火災保険料などを維持できるか
- 通院、介護、就労、通学に支障がないか
- 家屋の処分価値が著しく高くないか
- 転居によって住宅扶助が節減されるか
特に、名義変更や相続登記が完了していなくても、遺贈による権利関係が明らかになった時点で相談することが大切です。
6.引越費用は支給される可能性がある
福祉事務所が移転を必要かつ相当と認め、事前に承認した場合は、家財の荷造費や運搬費など、必要最小限度の引越費用が支給される可能性があります。
ただし、必ず契約や引越しをする前に福祉事務所の承認を受けることが必要です。実施要領でも、被保護者の転居について、真にやむを得ず、実施機関が事前に承認した必要最小限度の運搬費等を認定できるとされています。
なお、所有する家屋へ移るため、敷金や礼金は通常発生しませんが、移転前の清掃費、修繕費、登記費用などがすべて生活保護費から支給されるとは限りません。
7.遺贈を受けたことによる保護費の返還問題
遺贈された家屋に相当な資産価値がある場合は、家屋を売却しないで居住することが認められたとしても、取得時期や資産価値、保護の必要性によっては、福祉事務所が保護の変更・停止・廃止や、既に支給した保護費の返還を検討することがあります。
ただし、居住用として保有が認められる家屋について、家屋の評価額全額を直ちに現金収入と同じように扱うとは限りません。実際に利用できる資産か、売却を求めるべきか、自宅として保有させるべきかを個別に判断します。
まとめ
今回のケースでは、
- 現在の借家が老朽化している
- 遺贈された家屋の方が良好な状態である
- 移転すれば毎月の家賃が不要になる
という事情があるため、遺贈された家屋が世帯に見合った一般的な住宅で、著しく高価でなければ、移転が認められる可能性は十分あります。
ただし、まず家屋を取得した事実を福祉事務所へ申告し、資産価値、安全性、維持費、権利関係について審査を受け、転居と引越費用について事前承認を得る必要があります。
(A2)遺贈された家屋が、
- 世帯人数や家族構成に適している
- 世帯主の通勤に便利である
- 現在の借家より安全・良好な状態である
- 移転後は家賃負担がなくなる
- 売却価値が著しく高い住宅ではない
という状況であれば、現住居から遺贈された家屋への移転は、原則として認められる可能性が高いと考えられます。
遺贈された家屋を売却するのではなく、自宅として実際に使用することも、生活保護法上の「資産の活用」に当たるためです。生活保護法第4条は、利用できる資産を最低生活の維持のために活用することを求めています。
移転が合理的と判断される理由
今回のケースでは、遺贈された家屋への移転によって、次の効果が期待できます。
家賃が不要になる
借家から自己所有の家屋へ移れば、通常は毎月の家賃がなくなります。その結果、住宅扶助の支給額を減らすことができ、公費の節減にもつながります。
世帯の生活に適している
家族構成に合った広さや設備があり、現住居より状態が良ければ、最低生活を安定して維持する住居として適していると判断されやすくなります。
就労の継続に役立つ
世帯主の勤務先に近く、通勤が便利になることは、就労の継続や世帯の自立に役立つ事情です。生活保護制度は最低生活の保障だけでなく、自立の助長も目的としています。
福祉事務所の確認を受ける必要があります
実際に移転する前に、遺贈の事実と転居希望を福祉事務所へ届け出て、承認を受ける必要があります。
福祉事務所は、主に次の点を確認します。
- 遺贈による所有権取得が確実であるか
- 家屋や土地に共有者、抵当権、差押えなどがないか
- 家屋の市場価格が著しく高額でないか
- 世帯人数に比べて過大な住宅ではないか
- 安全に居住できる状態か
- 大規模な修繕が必要ではないか
- 固定資産税、保険料、維持管理費を負担できるか
- 通勤、通院、通学、介護などに支障がないか
- 現在の借家契約を適切に終了できるか
高額な家屋の場合は売却を求められることがあります
家族構成や通勤に適していても、遺贈された家屋が非常に高価で、売却すれば長期間にわたって生活を維持できる場合には、そのまま住むことが認められず、売却による活用を求められる可能性があります。
したがって、単に「住みやすい」という事情だけでなく、家屋の処分価値と住居としての利用価値との比較が重要です。
一般的な住宅であり、売却価値が居住利用の価値に比べて著しく大きくなければ、自宅としての保有が認められやすいと考えられます。
移転費用の取扱い
福祉事務所が転居を必要かつ相当と認めた場合は、家財道具の荷造費や運搬費などについて、必要最小限度の額が支給される可能性があります。
ただし、生活保護の実施要領では、転居に伴う荷造費・運搬費について、実施機関が事前に承認した場合に認定できるとされています。したがって、先に引越しをしてから費用を請求するのではなく、見積書を提出して事前承認を受けることが重要です。
一方、次の費用が必ず支給されるとは限りません。
- 相続・遺贈による登記費用
- 固定資産税
- 大規模なリフォーム費用
- 建物の価値を高める改装費
- 必要以上に高額な引越費用
これらは個別に必要性と支給根拠が審査されます。
具体的な手続き
実務上は、次の順序で進めます。
- 遺言書や遺贈の内容を福祉事務所へ申告する
- 登記事項証明書、固定資産税課税明細、査定書などを提出する
- 家屋の状態や修繕の必要性を確認してもらう
- 遺贈された家屋への転居理由を説明する
- 引越業者の見積書を提出する
- 福祉事務所の承認を受けてから転居する
- 転居後、住宅扶助や生活保護費の変更手続きを行う
まとめ
今回のように、遺贈された家屋が家族構成に合い、世帯主の通勤にも便利で、現在の借家より良好である場合には、その家屋へ移転することは生活の安定と自立に役立ち、家賃の節減にもなるため、認められる可能性が高いと考えられます。
ただし、家屋が著しく高額でないこと、安全に居住できること、維持管理が可能であることなどの確認が必要です。転居や引越費用については、必ず事前に福祉事務所へ申告し、承認を受けてから進める必要があります。
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