(Q)生活保護の申請時に、申請者の状況確認に必要な資料の提出を求めることは、申請権の侵害に当たりますか。また、資料が提出されないことを理由に申請を受け付けない対応は適切ですか。資料の提出が困難な場合、保護の実施機関はどのように要件を確認すべきですか。
(A)はい。この質問は、生活保護を申請する際に、通帳や給与明細などの資料がそろっていなくても申請できるのか。また、資料を提出できない場合、福祉事務所はどのように対応すべきなのかという質問です。
生活保護の申請手続において、非常に重要な問題です。
① 結論
生活保護の申請時に、必要な資料の提出を求めること自体は、申請権の侵害には当たりません。
しかし、「資料を全部提出しなければ申請を受け付けない」という対応は不適切です。
また、申請者の事情によって資料の提出が困難な場合には、福祉事務所が必要な調査を行い、生活保護の要件を確認する必要があります。
これは、厚生労働省の「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」第9・問3に示されている取扱いです。
② 申請時に資料の提出を求めてもよいのですか?
はい。求めることは認められています。
福祉事務所は、生活保護を開始する必要があるかどうかを判断するため、申請者の収入や資産などを確認する必要があります。
例えば、次のような資料です。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 預貯金通帳 | 預貯金の残高や入出金状況 |
| 給与明細書 | 給与収入の金額 |
| 年金通知書 | 年金の受給状況 |
| 賃貸借契約書 | 家賃や住居の状況 |
| 離職票 | 退職や失業の状況 |
| 保険関係の書類 | 保険契約や解約返戻金などの状況 |
これらの資料を提出してもらうことは、適正な保護の決定に必要な手続です。
したがって、資料の提出をお願いすること自体に問題はありません。
ただし、資料の提出を申請受付の条件にしてはいけません。
③ 資料が提出されない場合、申請を受け付けなくてもよいのですか?
いいえ。資料がそろっていないことだけを理由に、申請を受け付けない対応は適切ではありません。
例えば、Aさんが生活保護を申請するために福祉事務所を訪れたとします。
Aさんは所持金がほとんどなく、生活に困っています。
しかし、銀行の通帳を紛失しており、すぐには提出できません。
このとき、福祉事務所の職員が次のように対応した場合を考えます。
【不適切な対応】
「通帳がないので、生活保護の申請は受け付けられません。通帳を用意してから来てください。」
このような対応は不適切です。
【適切な対応】
「生活保護の申請は受け付けます。通帳については、後日提出できるか確認しましょう。提出が難しい場合は、福祉事務所でも必要な調査を行います。」
こちらが適切な対応です。
厚生労働省は、申請に必要な書類について、申請から保護決定までの間に提出することも差し支えないとしています。
④ 資料の提出が困難な場合、福祉事務所はどうすればよいのですか?
申請者本人から資料が提出されない場合でも、福祉事務所が必要な調査を行い、保護の要件を確認する必要があります。
例えば、次のような方法が考えられます。
| 確認したい内容 | 福祉事務所が行う調査の例 |
|---|---|
| 預貯金の状況 | 金融機関への照会 |
| 給与収入 | 勤務先への照会 |
| 年金収入 | 年金関係機関への照会 |
| 生活状況 | 本人からの聞き取りや訪問調査 |
| 資産の状況 | 関係機関への照会や資料の確認 |
生活保護法第29条では、保護の決定などに必要な場合、関係機関等に資料の提供や報告を求めることができると定めています。
つまり、申請者にすべての資料を用意させなければ、福祉事務所は調査できないというわけではありません。
ただし、本人にも、可能な範囲で申告や調査に協力することが求められます。
⑤ 具体例で説明します
【事例】通帳も給与明細もない人が生活保護を申請した場合
Aさんは55歳で、失業して生活に困っています。
現在の状況は次のとおりです。
- 所持金:2,000円
- 仕事:なし
- 預貯金通帳:紛失
- 給与明細:紛失
- 家賃:月40,000円
Aさんは生活保護を申請するため、福祉事務所を訪れました。
この場合、福祉事務所は次の順序で対応します。
① 生活保護の申請を受け付ける
通帳や給与明細がなくても、申請意思が明確であれば、必要な申請手続を進めます。
② 本人から生活状況を聞き取る
現在の所持金、収入、住居、生活状況などを確認します。
③ 必要な資料の提出を求める
提出できる資料があれば、できるだけ早く提出してもらいます。
④ 提出できない資料は福祉事務所が調査する
必要に応じて、金融機関や関係機関などへの照会を行います。
⑤ 調査結果に基づいて保護の要否を決定する
調査によって生活保護の要件を確認し、保護を開始するかどうかを判断します。
このように、資料がない場合でも、申請を受け付けたうえで調査を進めることが重要です。
⑥ 申請から決定までの期間は?
生活保護法第24条では、申請後の決定について、次のように定めています。
| 項目 | 期間 |
|---|---|
| 原則 | 申請日から14日以内 |
| 特別な理由がある場合 | 最長30日まで延長可能 |
また、14日以内に決定できない場合には、延長の理由を明示する必要があります。
したがって、資料がそろわないことを理由に、申請手続をいつまでも先延ばしにすることはできません。
⑦ 申請者が資料の提出を拒否した場合は?
ここは、資料を提出できない場合と区別する必要があります。
資料を提出できない場合と、正当な理由なく調査への協力を拒否する場合は、同じではありません。
例えば、通帳を紛失して提出できない場合には、福祉事務所が必要な調査を行うことが求められます。
一方、申請者が正当な理由なく必要な報告や調査を拒否し、保護の要件を確認できない場合には、生活保護法第28条に基づく対応が問題となることがあります。
ただし、その場合でも、申請を最初から受け付けないという対応とは区別しなければなりません。
⑧ まとめ
今回の質問を簡単にまとめると、次のとおりです。
生活保護の相談・申請時に、申請者の収入や資産などを確認するため、必要な資料の提出を求めること自体は、申請権の侵害には当たりません。
しかし、資料が提出されないことを理由に、生活保護の申請を受け付けない対応は不適切です。
また、申請者の事情によって資料の提出が困難な場合には、保護の実施機関が必要な調査を実施し、保護の要件を確認する必要があります。
根拠となる通知・法律
1.厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」第9・問3
2.生活保護法第24条(申請による保護の開始及び変更)
3.厚生労働省「生活保護制度」
最も重要なのは、「申請を受け付けること」と「保護を開始するかどうかを審査すること」は別である、という点です。
申請者に資料がなくても申請は受け付け、その後の調査によって生活保護の必要性を判断することが、適切な取扱いです。
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