(Q3)Aさんは複数の持病があり、毎月3つの病院に計10回ほど通院しています。年金受給開始により生活保護が廃止され、医療扶助が受けられなくなった場合、医療費の自己負担が発生します。このような状況で、年金受給によって生活が苦しくなることはあるのでしょうか?(Q4)Aさんは、年金請求書を提出しないことで、生活保護と医療扶助の給付を継続したいと考えています。生活保護法上、年金請求権を行使しないことに問題はないのでしょうか?

(A3)はい、そのようなことはあり得ます。 このケースでは、単純に「年金額が最低生活費を上回ったから生活保護を廃止する」と考えるのではなく、保護廃止後にAさんが実際に負担することになる医療費等も踏まえて、保護の要否を判断することが重要です。

この質問を簡単に言い換えると、

「年金が増えたことで生活保護がなくなっても、毎月たくさん病院に通って医療費を自分で払うことになれば、かえって生活できなくなるのではないでしょうか?」

という質問です。

1.生活保護中は医療扶助がある

生活保護を受けている間は、必要な診療について医療扶助が適用され、原則として本人が医療機関の窓口で医療費を負担する仕組みではありません。

ところが、年金収入の増加などによって生活保護が廃止されれば、医療扶助も終了し、原則として健康保険制度へ移行します。厚生労働省も、保護を廃止する場合には国民健康保険等への移行に配慮するよう定めています。

2.Aさんの場合、医療費を考慮する必要がある

Aさんは、3つの病院に毎月合計10回程度通院しているとのことです。

そのため、生活保護廃止後には、年齢・所得・加入する医療保険に応じて、診察代、検査代、薬代などの自己負担が発生します。

例えば、年金収入が増えて毎月の生活費に数千円の余裕が生じたとしても、生活保護廃止後に毎月数万円の医療費負担が発生するのであれば、「年金が増えたのに、実際に使えるお金は以前より少なくなる」という状況も考えられます。

3.「高額療養費制度」も含めて判断する

ただし、単純に病院の窓口負担額をすべてそのまま計算するわけでもありません。

健康保険には高額療養費制度があり、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合、超過部分が支給されます。自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。2026年8月からは年間上限も設けられています。

生活保護の医療扶助運営要領でも、保護を廃止して国民健康保険等へ移行する場合には、保険料と医療費の自己負担額などを考慮した取扱いが示されています。

したがって、Aさんについては、

年金165万円になった → 最低生活費を超えた → 即、生活保護廃止

とだけ考えるのではなく、

年金等の収入、最低生活費、健康保険料、実際に必要となる医療費、高額療養費による負担軽減など

を確認する必要があります。

4.分かりやすい具体例

仮にAさんについて、

最低生活費:月13万円
年金収入:月13万7,500円

だったとします。

一見すると年金が最低生活費を7,500円上回っています。

しかし、生活保護を廃止すると健康保険に加入し、仮に保険料や医療費の自己負担などが毎月相当額発生するのであれば、保護廃止後の実際の生活維持が可能なのかを検討する必要があります。

厚生労働省も、高額療養費制度との関係で、医療保険を利用することによって保護を継続する必要がなくなる世帯についての判定方法を定めています。

したがって、この質問のポイントは、**「年金額だけを見て生活保護の廃止を判断するのではなく、保護廃止後に発生する健康保険料や医療費の自己負担、高額療養費制度などを含めて、Aさんが最低生活を維持できるかを確認する必要がある」**ということです。

特にAさんのように持病が複数あり、毎月10回程度の通院が必要な人では、医療費負担が保護の要否判定にどう反映されるかが非常に重要なポイントになります。

(A4)このケースでは、Aさんが**「年金を請求すると生活保護が廃止され、医療扶助もなくなる可能性があるので、あえて年金請求書を提出しない」ことが生活保護制度上認められるのか**がポイントです。

結論としては、原則として認められません。 年金を受給できる権利があり、請求すれば受給できる状態であれば、生活保護を継続するためだけに年金請求をしないという取扱いは、生活保護の「他法他施策の活用」の原則との関係で問題になります。

厚生労働省は、生活保護について、世帯員が利用できる資産・能力その他あらゆるものを最低生活の維持に活用することを前提とし、**「年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用してください」**と説明しています。

さらに生活保護実施要領では、

他の法律・制度による保障や援助を受けることができる者については、その利用に努めさせる

という「他法他施策の活用」が定められています。

したがって、Aさんが65歳になり、老齢基礎年金・老齢厚生年金について受給資格があり、請求手続をすれば年金を受け取れる状態になったのであれば、福祉事務所は基本的に年金の請求手続きを行うよう助言・指導することになります。厚生労働省も、生活保護受給者が年金請求手続きを行い、確実に年金を受給することは生活保護の原則から重要だとしています。

「医療費が心配だから年金を請求しない」はどうなる?

ここが今回の事例で特に重要です。

Aさんが、

「年金を受け取る → 生活保護が廃止される → 医療扶助がなくなる → 通院費の自己負担が増える」

ことを心配していても、原則として、そのことを理由に年金請求権を行使せず、生活保護・医療扶助を選択して受け続けることはできません。

まず年金を請求し、その年金を収入として扱ったうえで、それでもAさんが最低生活を維持できるかを生活保護制度上判断することになります。

つまり、

「年金か生活保護か、本人が有利な方を選ぶ」

という制度ではなく、

「まず利用できる年金を利用する → それでも最低生活費に不足する部分があれば生活保護で補う」

という順番です。

また、Aさんが正当な理由なく年金請求を拒み続ける場合には、福祉事務所から年金請求について助言・指導を受ける可能性があります。実施要領上も、利用できる資源の活用を怠ったり忌避したりしている場合には、適切な助言・指導を行う取扱いが示されています。

したがって、この質問を一言でまとめると、

「Aさんは、医療扶助を継続して受けたいという理由だけで、受給できる老齢年金をあえて請求しないことは原則としてできません。まず年金請求権を行使して年金を受給し、その年金を収入として計算したうえで、それでも最低生活を維持できない場合に生活保護が補完する、というのが基本的な考え方です。」

となります。

なお、前のご質問との関係では、**「年金を請求しなければ医療扶助を維持できるか」ではなく、「年金を請求したうえで、Aさんの多額の医療需要を含めて保護の要否をどう判定するのか」**を検討するのが本来のポイントです。

記事のお問い合わせ先 生活保護専門 神戸市の義足行政書士事務所