(Q)父が亡くなり、預貯金・自宅・別荘を家族3人(母・兄・私)でどう分けるか話し合いました。その際、兄が「母の面倒を見る」と約束したため、母は何も受け取らず、兄が預貯金と自宅、私は別荘を受け取る内容で遺産分割協議書を作り、3人とも実印を押しました。
ところが兄は約束を守らず、母の世話をしていません。また、別荘の名義変更をしようとすると、母は印鑑証明を渡してくれましたが、兄が印鑑証明を渡してくれず登記が進みません。
このような場合、遺産分割をやり直すなど、何か対応できる方法はあるのでしょうか?
(A)ご質問のケースでは、
- 遺産分割協議書は3名の実印があり「有効」
- しかし兄が「母の面倒を見る」という約束を守らない
- 兄が印鑑証明書を出さず、別荘の名義変更ができない
という状況ですね。
結論からいうと、“遺産分割のやり直しは原則できないが、例外的に取り消しや無効主張が可能な場合がある” という形になります。
■1.遺産分割協議は「原則やり直し不可」
遺産分割協議書は、相続人全員の合意で成立し、押印もされているため、基本的には有効です。
そのため、単純に
「兄が面倒を見ないからやり直す」
という理由だけでは、通常は 遺産分割協議のやり直しはできません。
■2.例外的に「取り消し・無効」を主張できる可能性がある
遺産分割協議が成立した背景に以下のような問題があれば、取消し・無効 を主張できる可能性があります。
●① 詐欺・脅迫があった場合
兄が「母の面倒を見る」と言いながら、最初からその意思がなく、母をだまして自分に有利な内容へ誘導した場合、
→ 詐欺による取消し(民法96条) を主張できる可能性があります。
●② 重要な事項の錯誤(思い違い)があった場合
母が
「兄が面倒を見るのであれば財産を放棄する」
という前提で合意していた場合
→ 動機の錯誤(民法95条)として主張できる場合があります。
●③ 母が困惑状態・認知機能低下などで適切な判断ができなかった場合
当時の母の判断能力に問題がある場合、
→ 意思能力欠如による無効 などの可能性があります。
■3.兄が印鑑証明書を渡さない場合の対処
●(A)家庭裁判所で「遺産分割協議書に基づく履行を求める調停」を申立て
兄に協議書どおりに応じさせるための手続です。
→ 調停・審判で強制的に動かすことができる場合があります。
●(B)弁護士を通じて「協議書通り名義変更に協力するよう内容証明」
心理的プレッシャーがかかり、提出に応じる例が多いです。
●(C)兄がどうしても応じない場合
調停 → 審判に進み、裁判所が代わりに手続きを進める方向に行くこともあります。
■4.「母が財産を放棄した理由」と「兄の約束」が重要なポイント
このケースでは、母が
「兄が自分の面倒を見ること」を条件に何も取得しなかった
という点が非常に重要です。
兄の約束が 遺産分割の重要な動機 であったことを示せれば、
- 詐欺の可能性
- 動機の錯誤
- 公序良俗違反
など、法的なアプローチが可能になります。
■5.考えられる現実的な解決策
【1】まずは内容証明で兄に協力を要求
弁護士名で送るのが最も効果的です。
【2】応じない場合、家庭裁判所へ調停申立て
「遺産分割協議書どおりの履行を求める調停」です。
【3】それでも拒否される場合
・無効や取消しの主張
・兄への損害賠償請求
など、本格的な法的手続に進みます。
■6.まとめ(相談者が取り得る行動)
兄が協力しないなら裁判所の手続で前に進められる
遺産分割協議は原則やり直し不可
ただし、「兄の約束」が前提になっていたため
→ 詐欺・錯誤取消しなど主張できる可能性あり
まずは内容証明 → 調停 → 審判