(Q)Aさんは単身世帯で生活保護を受給しています。今月、生活保護費を支給されましたが、同月10日には所持金がなくなり、生活費にも困るようになったため、法律相談に来ました。Aさんは「全財産を入れた財布を落としてしまい、福祉事務所に事情を説明したが、保護費の再支給は認められなかった」と話しています。この場合、Aさんに対してどのようなアドバイスを行うべきか、理由も含めて述べなさい。
(A)この事例では、「財布を落とした」という事情が、生活保護費の再支給が認められる『不可抗力による紛失』に当たるかが最大のポイントです。
結論として、財布を落としただけで自動的に再支給されるわけではありませんが、一定の条件を満たせば再支給が認められる可能性があります。 厚生労働省の実施要領では、前渡しされた保護費を「盗難、強奪その他不可抗力」によって失った場合、失った日以後のその月の残りの日数に応じて算定した額の範囲内で、必要額を再支給できるとされています。
この質問を簡単に言い換えると
「生活保護費を受け取った後、全財産の入った財布を落として生活できなくなりました。福祉事務所から再支給を断られましたが、本当にもう一度支給してもらうことはできないのでしょうか?」
という問題です。
Aさんには、まず警察へ遺失届を提出したか確認するようアドバイスすることが重要です。厚生労働省の課長通知「問(第10の16)」では、遺失の場合にも警察への遺失届の提出を求めています。
ただし、遺失の場合は「財布を落としました」という申告だけでは足りません。通知では、社会通念上一般に要求される程度の注意をしていたにもかかわらず紛失したことが立証されない限り、不可抗力とは認められないとされています。
例えば、「保護費のほぼ全額を財布に入れて持ち歩き、不注意で落とした」という事情であれば、福祉事務所から本人の金銭管理上の問題であり、不可抗力とは認められないと判断される可能性があります。
反対に、十分注意して管理していたにもかかわらず紛失したことについて客観的な事情があり、警察への遺失届も提出しているのであれば、再支給の対象になるか改めて福祉事務所に判断を求める余地があります。
また、福祉事務所は再支給の申請があった場合、本人や関係者から事情を詳しく聞き、なぜ失ったのか、いくら失ったのか、その時点でいくら持っていたのかなどを十分確認することとされています。預貯金が残っていて、それで最低生活を維持できる場合には、まずその預貯金を活用する取扱いです。
再支給されるとしても「1か月分丸ごと」ではありません
ここも重要です。
仮にAさんが10日に保護費を紛失したとしても、最初に支給された1か月分をもう一度そのまま支給する制度ではありません。
認められるのは、
「紛失した日以後、その月の残りの日数に対応する額」の範囲内で、実際に必要な額
です。
したがって、Aさんへのアドバイスとしては、①すぐ警察に遺失届を提出する、②遺失届の受理番号等を控える、③財布を紛失した日時・場所・経緯・入っていた金額を具体的に整理する、④預貯金など他に使える資産がないことを確認する、⑤これらを示して福祉事務所に「扶助費の再支給」として改めて申請・判断を求める、という流れが適切です。
そして、福祉事務所が単に**「一度支給した生活保護費は、なくしても絶対に再支給できません」**という理由だけで拒否しているのであれば、それは実施要領の取扱いと合いません。再支給制度そのものが存在するため、Aさんの紛失が「その他不可抗力」に該当するかを具体的に調査して判断する必要があります。
一方、Aさんが保護費のほぼ全額を財布に入れて持ち歩いていたのであれば、今後については、必要以上の現金を携帯せず、口座に残して必要な分だけ引き出すなど、金銭管理方法を改善することも重要です。厚生労働省も、再支給の際にはこのような生活上の指導を行うよう示しています。
要するに、「財布を落とした=必ず再支給」でも「財布を落とした=絶対に再支給不可」でもありません。警察への遺失届を前提に、Aさんが通常必要な注意をしていたにもかかわらず紛失した『不可抗力』と認められるかを個別に判断し、認められれば月の残りの日数に応じた必要額を再支給できる、というのがポイントです。
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