(Q1)どのような場合に転居の必要性が認められますか?(Q2)転居支援の対象となる被害者の種類にはどのようなものがありますか?
(A1)生活保護で転居の必要性が認められる場合は、単に「引っ越したい」という希望だけではなく、現在の住居に住み続けることが困難である、または転居することが生活の安定・自立につながるなど、客観的・合理的な理由がある場合です。
厚生労働省の課長通知「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」第7・問30では、転居に伴う敷金等を住宅扶助として認定できる代表的なケースとして、次の18類型を示しています。
- 入院していた人が退院するが、帰る住居がない場合
- 福祉事務所の指導により、現在より家賃の安い住宅へ転居する場合
- 土地収用や都市計画などにより立退きを強制される場合
- 退職などにより社宅・寮等から退去しなければならない場合
- 社会福祉施設等を退所する際、帰る住居がない場合
- 無料低額宿泊所や宿所提供施設などから、一般の居宅生活へ移る場合
- 家主・管理者からサービス利用を強要されたり、著しく高額な共益費を請求されたりするなど、不当な行為を受けているため転居する場合
- 職場が遠く通勤が著しく困難で、職場近くへの転居が収入増加や健康維持など自立に特に効果的な場合
- 火災などの災害で現在の住宅がなくなった、または住めなくなった場合
- 住宅が老朽化・破損し、住み続けることができない場合
- 住宅が著しく狭い、または劣悪で、明らかに居住に耐えない場合
- 療養上、現在の住環境が著しく悪い場合、または高齢者・身体障害者にとって住宅の設備・構造が適さない場合
- 住宅を確保できず親戚・知人宅などに一時的に身を寄せている人が、正式な住宅へ転居する場合
- 家主から相当な理由で立退きを求められたり、契約更新を拒否・解約されたりして、やむを得ず転居する場合
- 離婚や事実婚の解消によって、新しい住居が必要になった場合
- 高齢者・身体障害者等が、扶養義務者から日常的な介護を受けるため、その近くへ転居する場合(逆に、双方が被保護者で、介護する扶養義務者側が近くへ転居する場合も含む)
- 本人の状態から、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などの適切な法定施設への入居がやむを得ない場合
- 犯罪被害や同一世帯員からの暴力などから生命・身体の安全を守るため、新たな住宅へ転居する必要がある場合。
たとえば、現在の家賃が住宅扶助の限度額を大きく超えており、福祉事務所から「もっと家賃の安い住宅を探してください」と指導されて転居する場合は、上記②に該当します。
また、「階段しかないアパートの3階に住んでいるが、身体障害により階段の昇降が困難になった」という場合には、住宅の設備・構造が本人の状態に適さないとして、上記⑫に該当する可能性があります。
一方で、
「もっと新しいマンションに住みたい」
「部屋の雰囲気が気に入らない」
「今より便利な場所に住みたい」
といった本人の希望だけでは、原則として生活保護上の転居の必要性が認められるとは限りません。
重要なのは、転居する合理的な必要性があり、福祉事務所がその事情を確認して認めることです。
なお、この18項目は特に、転居に伴う敷金・礼金・仲介手数料等を住宅扶助として支給できるかを判断するときの基準です。必要やむを得ない場合には、敷金だけでなく、権利金、礼金、不動産仲介手数料、火災保険料、保証料についても転居に必要な費用として認定できるとされています。
ですので、一言でまとめると、**「現在の住宅に住み続けることが困難、退院・退所・離婚等で新しい住宅が必要、安全確保が必要、または転居することが自立に特に有効であるなど、厚労省通知上の合理的な事情がある場合に、生活保護上の転居の必要性が認められる」**という理解で大丈夫です。
(A2)はい。生活保護上、転居費用(敷金等)の対象となり得る「被害者」は、特定の犯罪名やDV被害者だけに限定されているわけではありません。
厚生労働省の現行の課長通知・第7問30では、転居が認められる場合の一つとして、次の趣旨が定められています。
犯罪等により被害を受けた場合、または同一世帯員から暴力を受けた場合で、生命・身体の安全を確保するために新しい住居へ転居する必要がある場合
です。
したがって、対象となり得る被害者は、例えば次のように考えられます。
- DV(配偶者・パートナーからの暴力)の被害者
- 同居している家族から暴力を受けている人
- ストーカー被害を受けている人
- 暴行・傷害などの犯罪被害を受け、現在の住居にいると再被害のおそれがある人
- 性犯罪などの被害を受け、加害者に住所を知られているなど安全上転居が必要な人
- その他の犯罪・暴力等によって、現在の住居では生命・身体の安全を確保できない人
特に重要なのは、通知が**「犯罪被害者」という特定の身分・制度上の認定を要求しているのではなく、「犯罪等により被害を受け」「安全確保のため転居する必要があるか」を見ている**点です。
同一世帯員からの暴力も対象です
例えば、生活保護世帯が「母・成人した子」の2人世帯で、成人した子から母が継続的に暴力を受けている場合、
「同じ生活保護世帯だから転居できない」
ということではありません。
母がその家にとどまれば生命・身体に危険が及ぶおそれがあり、別の住居へ避難・転居する必要があると福祉事務所が認めれば、安全確保を目的とした転居として、敷金等の住宅扶助を認定できる可能性があります。
「警察への被害届がないと絶対に対象外」という規定ではありません
通知の文言上、転居費用を認める条件として、「被害届を提出していること」や「加害者が逮捕されていること」などが一律の必須条件とはされていません。
重要なのは、福祉事務所が本人の申告や関係機関からの情報などをもとに、
①実際に犯罪・暴力等による被害があること
②現在の住居にとどまることで安全上の問題があること
③安全確保のため新しい住居への転居が必要であること
を確認できるかです。
したがって、DV相談機関、女性相談支援センター、警察、医療機関などからの情報があれば、転居の必要性を判断するうえで重要な資料になります。
転居費用だけでなく家具等についても特例があります
さらに現行の局長通知では、犯罪等の被害や同一世帯員からの暴力によって安全確保のため転居する場合、最低生活に必要な家具什器を持ち出せなかった場合などには、家具什器費を認定できる仕組みも設けられています。
これは例えば、
「DV加害者から緊急避難したため、冷蔵庫や寝具などを元の家に残したまま新居へ移った」
というケースを想定すると分かりやすいです。
つまり、生活保護上の転居支援については、DV被害者だけではなく、犯罪、ストーカー、家族からの暴力などにより、現在の住居では生命・身体の安全を確保できず、新しい住宅への転居が必要な人が幅広く対象になり得る、と理解するとよいです。
最終的には「どの犯罪に該当するか」よりも、安全確保のため転居が必要かどうかを個別に判断することが中心になります。
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