(Q1)生活に困窮している者が農地(田畑)を所有している場合、福祉事務所はその農地の処分を指示することがありますが、どのようなケースでそのような指示が出されるのでしょうか?(Q2)農地の耕作者が賃貸借契約に基づいて耕作しており、その耕作者が農地の売却に反対している場合、どのような問題が生じますか?
(A1)福祉事務所が農地の処分を求めるのは、主に、その農地を保有し続けるより、売却して生活費に充てる方が適当だと判断される場合です。
生活保護は、利用できる資産を最低生活の維持に活用することを原則としているためです。
農地の処分を求められやすいケース
1.本人や世帯員が耕作していない場合
農地を持っていても、現在まったく耕作しておらず、近い将来に耕作する見込みもない場合です。
例えば、
- 長年休耕地になっている
- 高齢や病気で農業を再開できる見込みがない
- 遠方にあり、実際には管理も利用もしていない
といった場合は、生活維持や自立に役立っていない資産として、売却、賃貸、小作などによる活用を求められることがあります。
2.農地の面積が必要以上に広い場合
保有できる農地は、その地域の平均耕作面積や世帯の農業従事者数などから見て、適当な規模であることが必要です。
世帯員だけでは耕作できないほど広大であったり、農業経営に必要な範囲を大きく超えていたりする場合は、超過部分の処分を求められる可能性があります。厚生労働省の実施要領では、地域の平均耕作面積や世帯の稼働人員などから見て適当であることが、保有を認める条件とされています。
3.農地としての収益がほとんどない場合
耕作していても、農業収入が極めて少なく、保有することが世帯の生活維持や自立にほとんど役立っていない場合です。
ただし、収益が少ないというだけで直ちに処分となるわけではありません。今後の収入増加の見込み、世帯員の就労状況、地域の農業事情などを含めて判断されます。
4.売却価値が農地としての利用価値より著しく高い場合
これが特に重要なケースです。
例えば、
- 周辺で工場や住宅地の開発が進んでいる
- 市街化が進み、転用可能性が高い
- 農業収入は少ないが、売却すれば高額になる
- 道路沿いなどで買収需要がある
という場合です。
通常なら保有可能な規模で、現に耕作している農地であっても、処分価値が利用価値に比べて著しく大きい場合は、保有が認められないとされています。
5.農地を貸したり売ったりすることが現実的に可能な場合
本人が耕作できなくても、農地を第三者に貸して小作料を得られる場合は、まず賃貸などによる活用が検討されます。
それでも十分な活用ができず、売却が可能で一定の価値がある場合は、処分を求められることがあります。資産は売却が原則ですが、売却が難しい場合には、貸与して収益を得る方法も検討するとされています。
反対に、保有が認められやすいケース
次の条件を満たす農地は、原則として保有が認められます。
- 地域の平均耕作面積や世帯の労働力から見て、適当な規模である
- 世帯員が現に耕作している
- または、おおむね3年以内に耕作し、世帯収入の増加に大きく役立つ見込みがある
- 売却価値が利用価値に比べて著しく高くない
つまり、農業を続けるために本当に必要で、生活維持や自立に役立っている農地であれば、すぐに売却を求められるわけではありません。
「先祖代々の土地だから」という理由だけでは難しい
本人にとって大切な農地であっても、
- 先祖代々の土地である
- 農家にとって田畑は命と同じである
- 将来値上がりするかもしれない
という気持ちだけでは、保有を認める決定的な理由にはなりません。
福祉事務所は、農地の利用状況、農業収入、面積、売却価格、転用可能性などを客観的に調査して判断します。
売却に時間がかかる場合
農地は、農地法上の許可や買主探しなどに時間がかかることがあります。
そのため、処分すべき農地であっても、直ちに現金化できず生活が成り立たない場合は、先に保護を開始し、売却後に支給済みの保護費の範囲内で返還を求める取扱いになることがあります。
まとめ
福祉事務所が農地の処分を求める主なケースは、
- 現在も将来も耕作する見込みがない
- 世帯の農業経営に必要な規模を超えている
- 生活維持や自立にほとんど役立っていない
- 売却価値が農地としての利用価値より著しく高い
- 売却や貸付けによる資産活用が可能である
場合です。
一方、世帯員が現に耕作し、地域の平均的な規模で、収入確保や自立に役立つ農地は、原則として保有が認められます。ただし、地価の高騰などにより処分価値が著しく高いときは、例外的に売却を求められる可能性があります。
(A2)農地を借りて耕作している人が売却に反対している場合、所有者が売りたいと思っても、農地を自由な状態にして簡単に売却することが難しくなるという問題が生じます。
特に、耕作者との賃貸借契約を終了させて農地を明け渡してもらうには、原則として農地法上の手続が必要です。農地の賃貸借の解除、解約の申入れ、更新拒絶には、原則として都道府県知事等の許可が必要とされています。
生じる主な問題
1.耕作者の反対だけでは契約を終了できない
農地の賃借権は、一般の土地の賃貸借よりも強く保護されています。
そのため、所有者が、
生活保護を申請したので農地を売りたい
という理由だけで、一方的に耕作者との契約を終了させ、退去・明渡しを求められるとは限りません。
耕作者が合意しなければ、農地法第18条に基づく許可を得る必要があり、その許可が得られない可能性もあります。
2.売却価格が低くなる可能性がある
賃貸借契約を残したまま農地を売ることができる場合でも、買主は、原則として耕作者が使用している状態を前提に取得することになります。
そのため、
- 買主が自由に使用できない
- 宅地や工場用地として直ちに利用できない
- 賃料収入しか得られない
- 将来、明渡しを受けられるか不確実である
といった理由から、買手が見つかりにくくなったり、売却価格が下がったりすることがあります。
また、農地を農地のまま売買する場合は、原則として農業委員会の許可が必要で、許可を受けない権利移転は無効とされます。
3.離作料などの費用が生じることがある
耕作者に合意して明け渡してもらうため、実務上は、
- 離作料
- 作物や農業設備に対する補償
- 代替農地の提供
- 移転に必要な費用
などの条件が問題になることがあります。
農林水産省の賃貸借解約の申請様式にも、離作料、作物補償、代替農地などを記載する欄が設けられています。
その結果、売却代金が高くても、明渡しのための費用を差し引くと、実際に生活費として活用できる金額が少なくなることがあります。
生活保護上はどう判断されるか
福祉事務所は、単に「耕作者が反対している」というだけで、直ちに農地の保有を認めるわけではありません。
次のような点を調査します。
- 賃貸借契約の内容と期間
- 農地法上、契約を終了できる可能性
- 賃借権付きのまま売却できるか
- 実際に買手が見つかるか
- 売却価格と離作料などの必要経費
- 賃料収入を生活費に活用できるか
- 耕作者との合意の可能性
生活保護の実施要領では、資産は原則として売却して活用しますが、売却が難しい場合には、貸付けによって収益を得る方法も検討するとされています。また、「処分することができない、または著しく困難な資産」は、直ちに処分させない場合があります。
「処分が著しく困難」と認められる可能性
例えば、次のような事情が客観的に確認できる場合には、処分が著しく困難な資産と評価される可能性があります。
- 耕作者が明渡しに同意しない
- 農地法上の解約許可を得る見込みが乏しい
- 賃借権付きでは買手が見つからない
- 長期間売却活動をしても売れない
- 離作料などが売却代金に近い、または上回る
ただし、耕作者が反対しているという事実だけでは不十分です。不動産業者や農業委員会への照会、査定、売却活動などによって、現実に処分が難しいことを確認する必要があります。
具体例
生活保護申請者が農地を所有し、第三者が長年その農地を借りて耕作しているとします。
耕作者が明渡しに反対している場合、福祉事務所は、すぐに「農地を売ってから申請してください」と処理するのではなく、
- 賃貸借契約の内容を確認する
- 農業委員会に解約手続や許可の可能性を確認する
- 賃借権付きでの売却価格を査定する
- 離作料などの費用を確認する
- 売却が現実的でなければ、賃料収入の活用を検討する
という順序で判断することになります。
まとめ
耕作者が売却に反対している場合は、農地の賃貸借を簡単に終了できず、売却の遅延、価格の低下、離作料の負担、農地法上の許可手続などの問題が生じます。
そのため、生活保護上も、直ちに処分可能な資産とは限りません。ただし、反対があるだけで保有が認められるのではなく、賃借権付き売却や契約終了の可能性を調査したうえで、本当に処分が不可能または著しく困難かを個別に判断することになります。
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