(Q1)実際に、生活保護の申請をしようと福祉事務所に行った際、窓口の職員が様々な口実をつけて申請させないようにする、いわゆる「水際作戦」が行われていることはあるのでしょうか?(Q2)もしそのような事例が実際に存在する場合、弁護士としてはどのように対応すべきでしょうか?
(A1)はい、いわゆる**「水際作戦」と呼ばれるような、生活保護の申請を事実上させない対応が問題になった事例は過去にあります。** 裁判例でも、福祉事務所の相談対応が申請権を侵害したかどうかが争われたケースがあります。
ただし、現在の制度上は、福祉事務所が相談者に対して**「申請しないように誘導する」「申請意思があるのに申請書を渡さない」**といった対応をすることは認められていません。
例えば、次のような説明だけを理由に申請を妨げることは適切ではありません。
- 「親族に相談してから来てください」
- 「住むところがない人は申請できません」
- 「必要書類が全部そろわないと申請できません」
- 「車や持ち家があるから申請できません」
- 「まだ若くて働けるから申請できません」
- 「施設に入らないなら申請できません」
厚生労働省も現在、必要書類がそろっていなくても申請できる、住居がなくても申請できる、親族に相談してからでなければ申請できないわけではないことを明確に案内しています。
もちろん、福祉事務所が生活状況、収入、資産、就労状況、他制度の利用可能性などについて詳しく説明・質問すること自体は「水際作戦」ではありません。生活保護の要否を判断するための通常の相談業務です。問題になるのは、相談者が生活保護を申請したい意思を示しているのに、別の制度や親族援助などを理由に申請そのものをさせない場合です。
実際、裁判所も、福祉事務所が相談者に申請意思があることを把握していながら申請意思を確認しなかったり、状況から申請意思を容易に推測できるのに確認しなかった結果、申請権が侵害された場合には、職務上の義務違反になり得るとの考え方を示しています。
また、いったん正式に生活保護の申請が行われれば、福祉事務所は単に口頭で「対象外です」と終わらせるのではなく、生活保護法24条に基づき、保護を開始するか却下するかを決定し、理由を付した書面で通知する必要があります。原則14日以内、特別な事情がある場合でも30日以内とされています。
したがって、わかりやすく言えば、**「相談の段階で制度説明や資産・収入の確認をすることは問題ない。しかし、本人が『生活保護を申請します』と明確に意思表示した後まで、職員の判断だけで申請書を渡さなかったり、申請を諦めさせたりすることは認められない」**ということです。
もし窓口で「あなたは対象にならないから申請できません」と言われた場合でも、本人に申請意思があるなら、**「相談ではなく、生活保護法に基づく正式な申請を希望します」**と明確に伝えることが重要です。その後、保護に該当するかどうかは、申請後の調査を踏まえて福祉事務所が決定することになります。
(A2)もし、福祉事務所が**「自治体所定の生活保護申請書でなければ受け付けない」「必要書類が全部そろうまで申請を受理しない」といった対応をしている事例が実際にある場合、弁護士としては、まず申請意思を明確に残し、申請日を確定させること**が重要です。
生活保護法24条では申請書の提出が原則ですが、申請書を作成できない特別な事情がある場合は例外が認められています。また、厚生労働省も、申請時点ですべての記載事項や添付資料がそろっている必要はなく、事情がある場合には口頭申請も認められると明示しています。
実務上、弁護士としては、たとえば本人と福祉事務所へ同行し、**「本日、本人は生活保護の開始を明確に申請します」**と伝えます。そのうえで、自治体所定の申請書を交付するよう求めます。申請書を渡してもらえない場合には、本人の氏名・住所または居所、生活保護を求める旨、申請理由などを記載した書面を提出し、受付印をもらうなど、申請した事実と日付を証拠として残す対応が考えられます。
特に、「通帳を持ってきてから」「賃貸借契約書がそろってから」「親族と相談してから」などと言われた場合には注意が必要です。厚労省は、資料提出を求めること自体は可能でも、「資料が提出されてからでないと申請を受け付けない」という対応は適切ではないと明確にしています。また、扶養義務者との相談を申請の前提とすることも、申請権侵害のおそれがあります。
それでも申請を受け付けてもらえない場合には、弁護士として、担当ケースワーカーだけでなく、査察指導員、生活保護担当課長、福祉事務所長など上席者に対応を求めることが考えられます。その際、厚労省通知を示して「本人の申請意思は明確であり、申請書類が完全でないことを理由に受付を拒むことは適切ではない」と指摘します。厚労省も、申請意思が確認された人には速やかに申請書を交付し、申請権を侵害する行為だけでなく、侵害していると疑われる行為も厳に慎むべきとしています。
さらに重要なのが、申請日を曖昧にしないことです。生活保護は原則として申請に基づいて開始されるため、「相談した日」と「正式に申請した日」がずれると、保護開始時期にも影響する可能性があります。そのため、弁護士が同行する場合には、申請書の写し、受付印、担当者名、日時、窓口でのやり取りなどを記録しておくことが実務上有効です。
もし福祉事務所が申請を正式に受理したうえで、調査の結果「保護の要件を満たさない」と判断するのであれば、本来は申請を受け付けずに口頭で帰して終わりではなく、保護開始または却下の決定を行うという行政手続になります。申請者としては、却下決定に納得できなければ、審査請求等によって争うことができます。
したがって、弁護士としての対応を簡単にまとめると、**「本人の申請意思を明確化する → 申請書の提出を求める → 拒否された場合は書面等で申請意思と申請日を証拠化する → 上席者に是正を求める → 正式な決定を求め、不服があれば審査請求等を検討する」**という流れになります。
特に大切なのは、「申請を受け付けるかどうか」と「保護が認められるかどうか」は別問題だということです。保護要件を満たすかは、申請を受け付けた後に福祉事務所が調査して判断すべき事項です。
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