(Q1)Bさんの相続財産がBさん名義の預金200万円のみの場合、AさんがBさんの相続を相続放棄しても、生活保護法上の問題は生じないでしょうか?また、相続放棄について破産法上の問題は生じないでしょうか?(Q2)Bさんの相続財産がBさん名義の預金1000万円の場合、AさんがBさんの相続を相続放棄しても、生活保護法上の問題は生じないでしょうか?また、相続放棄について破産法上の問題は生じないでしょうか?
(A1)このケースでは、**「民法上、相続放棄できるか」「生活保護上、それで問題がないか」「破産法上どうなるか」**を分けて考える必要があります。
まず前提として、Bさんの相続財産がBさん名義の預金200万円だけで、借金などのマイナス財産がないものとします。
1.民法上は相続放棄できます
Aさんは、預金200万円というプラスの財産しかない場合でも、原則として相続放棄を選択できます。
相続放棄は通常、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。相続放棄が認められると、Aさんは原則として「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われます。
したがって、民法上は、
「借金がないから相続放棄できない」
ということではありません。
2.しかし、生活保護上は問題になる可能性が高いです
ここが非常に重要です。
生活保護法4条1項では、生活保護を受けるためには、利用できる資産その他あらゆるものを最低生活の維持のために活用することが求められています。厚生労働省も、預貯金など利用できる資産については生活費に活用することを生活保護の基本要件としています。
したがって、Aさんが生活保護受給中で、
「Bさんの預金200万円を相続できることを知っている」
「借金もなく、200万円をほぼそのまま取得できる」
「それでも生活保護を受け続けるために相続放棄する」
というケースでは、福祉事務所から**「利用できる資産を自ら放棄したのではないか」**と問題にされる可能性が高いです。
つまり、
民法上、相続放棄は有効
=
生活保護上も何の問題もない
とは限りません。
200万円を相続すれば、そのお金をまず生活費として活用し、その後に資産が生活保護上許容される範囲まで減少した段階で、再び生活保護を利用する、というのが生活保護の補足性・資産活用原則に沿った通常の考え方です。
3.ただし、相続放棄に合理的な事情があれば別です
たとえば、一見預金200万円だけに見えても、
- 後から多額の債務が判明する可能性がある
- 保証債務などの有無が分からない
- 相続関係に重大な紛争がある
- 財産取得のために著しく大きな負担・危険がある
など、相続放棄をする合理的な理由がある場合には、単純に「200万円を捨てた」とは評価できません。
ですので生活保護受給中なら、相続放棄をする前に福祉事務所へ必ず相談するのが安全です。
4.破産法上は「相続放棄した時期」が非常に重要です
破産法については、もっと明確な特別規定があります。
特に重要なのが破産法238条です。
たとえば、
① Bさんが死亡してAさんに相続が開始した
② その後、Aさんについて破産手続開始決定が出た
③ その後にAさんが相続放棄した
という順番の場合です。
この場合、破産法238条1項により、Aさんがした相続放棄は、破産財団との関係では原則として「限定承認をした」のと同じ効力になります。つまり、Aさんが「相続放棄しました」と言っても、200万円を当然に破産財団から外せるわけではありません。
ただし、破産管財人がその相続放棄を認め、所定の手続を取ることは可能です。破産法238条2項がその仕組みを定めています。
5.破産前に相続放棄した場合は少し違います
一方、Aさんが破産手続開始前に適法な相続放棄を完了していた場合には、上記の破産法238条1項がそのまま適用される場面とは異なります。
また、最高裁判例では、相続放棄は民法上の詐害行為取消権の対象にはならないとされています。相続放棄は、既に持っている財産を積極的に減らす行為というより、財産の増加を受けないという身分上の行為だからです。
ただし、相続放棄と「遺産分割で自分の取り分をゼロにすること」は別です。 後者は財産処分として詐害行為等が問題になることがあります。この区別は重要です。
結論
今回の「Bさんの財産は預金200万円だけ」という単純なケースなら、
民法上
→ Aさんは相続放棄すること自体は可能。
生活保護法上
→ 200万円という利用可能な資産をあえて放棄すると、資産活用義務との関係で問題になる可能性が高い。生活保護を受け続ける目的で安易に放棄するのは避けるべき。
破産法上
→ 特に、相続開始後にAさんの破産手続が始まり、その後に相続放棄する場合は破産法238条が問題となり、相続放棄しても破産財団との関係では原則として限定承認と同じ扱いになる。
と整理すると分かりやすいです。
したがって、**Aさんが「生活保護受給中か」「既に破産手続開始決定を受けているか」「Bさんが亡くなったのは破産の前か後か」**で結論が大きく変わります。特に200万円のプラス財産しかないことが確実なら、生活保護受給中の相続放棄は、実行前にケースワーカーと弁護士の双方へ確認するのが適切です。
(A2)Bさんの相続財産が預金1,000万円のみで、Aさんがその相続を放棄する場合も、基本的な考え方は200万円の場合と同じです。むしろ金額が大きいため、生活保護法上はより強く問題になりやすいと考えられます。
まず、民法上は、Aさんはプラス財産しかなくても相続放棄できます。相続放棄をすると、原則として初めから相続人でなかったものとして扱われます。
ただし、生活保護法4条1項では、生活保護を受ける人は利用できる資産を最低生活の維持のために活用することが求められています。厚生労働省も、預貯金など利用可能な資産は原則として生活費に活用するという考え方を示しています。
そのため、Aさんが生活保護受給中で、
「Bさんから1,000万円の預金を相続できる」
「借金などの負債はない」
「相続すれば実際に1,000万円を取得できる」
「それでも生活保護を継続するために相続放棄する」
という状況なら、福祉事務所から**「活用できる重要な資産を自ら放棄したのではないか」**と評価される可能性が高いです。
つまり、
民法上、相続放棄が有効
=
生活保護法上も何の問題もない
とはなりません。
1,000万円を相続できるのであれば、通常はまずその資産を生活費として活用し、それが生活保護上利用できる資産でなくなった段階で、改めて保護の要否を判断するという流れが資産活用原則に沿います。
もっとも、相続放棄に合理的な事情がある場合は別です。たとえば、表面上は預金1,000万円でも、被相続人の保証債務や未判明の借金が多額に存在する可能性が高い、重大な相続紛争がある、といった事情があれば、単純に「1,000万円を捨てた」とは評価できません。
破産法上は、相続放棄をした時期と破産手続開始決定の時期が非常に重要です。
もし、
① Bさんが死亡し、Aさんに相続が開始
② その後Aさんについて破産手続開始決定
③ その後Aさんが相続放棄
という順番なら、破産法238条1項により、その相続放棄は破産財団との関係では原則として限定承認と同じ効力になります。つまり、Aさんが相続放棄をしても、1,000万円を当然に破産財団から外せるわけではありません。ただし、破産管財人がその相続放棄の効力を認めることはできます。
一方で、破産手続開始決定より前に適法に相続放棄を済ませていた場合は、破産法238条1項が直接適用される場面とは異なります。相続放棄は、一般に単なる財産処分とは異なる身分行為として扱われます。ただし、実際の破産事件では、相続放棄の時期・経緯・相続財産の内容を破産管財人に正確に説明しておく必要があります。
したがって、今回の1,000万円のケースは、わかりやすく言うと、
民法上
→ 相続放棄自体は可能。
生活保護法上
→ 借金もなく1,000万円を確実に取得できるのに放棄する場合、資産活用原則との関係でかなり問題になりやすい。
破産法上
→ 相続開始後に破産手続が開始し、その後に相続放棄した場合は、破産法238条により原則として破産財団との関係では限定承認扱いとなる。
という整理です。
特に1,000万円規模であれば、相続放棄を実行する前に、福祉事務所と破産事件を担当する弁護士・破産管財人の双方へ確認することが重要です。相続放棄後では戻せない場合があるためです。
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