(Q1)Aさんは生活保護の申請をしましたが、父親であるBさんからの援助は受けたくないと訴えています。福祉事務所による扶養照会に対し、Bさんは「私がAに毎月20万円送金しますので、Aに生活保護を利用させる必要はありません」と回答しました。しかし、Aさんは「僕にも意地があります。僕から送金先の口座を教えるようなことはしたくありません。父が現金を持参して、土下座して謝ってくれるのであれば、そのときは受け取ります」と言って、Bさんからの援助を拒絶しています。この場合、Aさんは生活保護を利用できるのでしょうか?(Q2)福祉事務所による扶養照会に対し、Bさんは「Aが私のところまでお金を取りにくれば、毎月20万円を渡します。ですから、Aに生活保護を利用させる必要はありません」と回答しました。しかし、Aさんは「お金を取りにいけば、父に説教されるので、嫌だ」と拒絶しています。この場合、Aさんは生活保護を利用できるのでしょうか?
(A1)このケースは、**「父親が十分な援助をすると明確に申し出ているのに、Aさん本人が感情的な理由で受取りを拒否した場合でも、生活保護を受けられるのか」**という問題です。
結論からいうと、通常の「親族が援助してくれない」というケースとは少し異なります。生活保護法4条2項では、民法上の扶養義務者による扶養は生活保護に優先するとされています。ただし、一般論として扶養そのものは生活保護を申請するための要件ではなく、実際に援助が行われれば、その援助額を収入として認定するのが基本です。
ところが今回、父親Bさんは、
「毎月20万円送金します」
と具体的に申し出ています。
厚生労働省の研修資料でも、扶養義務者に扶養能力があり、かつ金銭的援助をする意思が明らかな場合には、扶養請求権の行使が保護の要件として問題になることがあると明記されています。
そのためAさんが、
「父から援助を受けること自体ができない」のではなく、
「口座番号を教えたくない」「父親が現金を持ってきて土下座しない限り受け取らない」
という本人の意地や感情だけを理由として、現実に受けられる毎月20万円の援助を拒否しているのであれば、福祉事務所としては、そのまま無条件に「援助なし=収入0円」と扱うのではなく、なぜ援助を受けられないのかを詳しく確認することになります。
厚労省の実施要領でも、扶養義務者がいる場合には扶養その他の支援を求めるよう要保護者を指導し、扶養が期待できる場合には保護に優先させる一方、できるだけ当事者間の話し合いによる解決を図る考え方が示されています。
ただし、ここで重要なのは、「父親が20万円援助すると回答した=自動的にAさんの収入を20万円として認定する」わけではないことです。
実際に20万円が支払われた場合には収入認定の対象になりますが、単なる扶養照会への回答だけで、実際には受け取っていない20万円を機械的に「毎月の収入」とみなすこととは別問題です。厚労省も、扶養の「優先」は基本的に実際に金銭的扶養が行われた場合に収入として認定することを意味すると説明しています。
また、父親との間に過去の虐待、DV、著しい関係不良などがあり、援助を受けることを求めること自体がAさんに重大な不利益を生じさせるような事情があるなら話は変わります。単なる「意地」と、援助を求めることが現実的に困難な事情とは区別して判断する必要があります。
したがって、この事例は、
「扶養義務者から援助を受けられない人」ではなく、「父親には十分な扶養能力と明確な援助意思があるのに、本人が条件を付けて受取りを拒否している人」
として検討することになります。
要するに、父親が毎月20万円を確実に援助できると申し出ている以上、Aさんが単に「意地がある」「土下座してくれなければ受け取らない」という理由だけで援助を拒否しても、その事情がそのまま生活保護上尊重されるとは限りません。福祉事務所は扶養を受けられない具体的事情を確認し、扶養請求権を行使すべきケースかを検討したうえで、最終的な保護の要否を判断することになります。
一方で、扶養照会をしたことや父親が援助を申し出たことだけを理由に、生活保護の申請そのものを受け付けないことはできません。 厚労省も、「扶養義務者と相談してからでなければ申請を受け付けない」といった対応は申請権を侵害するおそれがあると明示しています。
(A2)はい。このケースは、前の「父親が送金すると申し出ているケース」よりも、援助を受けるための条件が付いている点がポイントです。
簡単に言い換えると、
「父親は毎月20万円援助すると言っているが、『自宅まで取りに来ること』を条件にしている。Aさんは父親から説教されるのが嫌なので取りに行かない。この場合、援助を受けられるのに拒否しているとして、生活保護を受けられなくなるのか?」
という質問です。
結論
「父親が20万円出すと言った」という事実だけで、直ちにAさんの生活保護を不支給にできるわけではありません。
生活保護法上、扶養義務者から実際に金銭的援助を受けた場合には、その援助は原則として収入として扱われます。一方、厚生労働省は「扶養義務者の扶養が保護に優先する」ということについて、原則として扶養そのものが生活保護を受けるための一般的な要件という意味ではないと説明しています。
ただし、今回のケースには重要な例外があります。厚労省の研修資料では、扶養義務者に扶養能力があり、かつ金銭的援助をする意思が明らかな場合には、「扶養請求権の行使」が保護の要件として問題になることがあるとされています。
したがって福祉事務所は、Bさんについて「本当に毎月20万円を負担できる経済力があるのか」「実際に20万円を渡す意思があるのか」「なぜ手渡しに限定しているのか」「Aさんが取りに行くことが現実的に可能なのか」「父子関係に特別な事情がないか」などを確認することになります。
特に、Aさんの**「説教されるのが嫌だから」という理由の中身**が重要です。
単に「父親と会うのが面倒」「説教を聞きたくない」という程度で、父子関係も特に悪くなく、Bさんが毎月20万円を確実に渡せる状態であれば、福祉事務所からAさんに対して、扶養を受けるよう働きかけが行われる可能性があります。実施要領でも、扶養の方法は実情に即して決め、要保護者から扶養義務者へ直接依頼するよう努めさせる取扱いが示されています。
一方、「説教」という言葉の背景に、過去の虐待、暴力、著しい関係不良などがあり、父親と直接会うことを求めることがAさんの自立を阻害するような事情がある場合は、全く違う判断になります。厚労省通知でも、虐待等の経緯があり、扶養を求めることで明らかに本人の自立を阻害する場合などは、扶養が期待できない者として取り扱う仕組みがあります。
また、Bさんが「取りに来れば20万円渡す」と回答しただけで、実際にはAさんが1円も受け取っていないのに、機械的に毎月20万円の収入があったことにするのは別問題です。福祉事務所は実際の援助の有無や、扶養請求権を行使すべきケースなのかを確認する必要があります。厚労省も、扶養が明らかに可能なのに特段の事情なく拒否している場合には、扶養義務が履行されるよう取り組む必要があるとしています。
したがって、このケースは、「父親が20万円を出すと言ったから生活保護は絶対に受けられない」でも、「Aさんが父親に会いたくないと言えば20万円の援助は一切考慮しなくてよい」でもありません。
福祉事務所が、Bさんの扶養能力・援助意思、手渡しという条件の合理性、Aさんが援助を拒否する理由、父子関係などを具体的に調査したうえで、扶養請求権の行使を求めるべきケースなのか、実際の援助がない状態でなお最低生活費に不足しているのかを判断する、というのがポイントです。
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