(Q)1年前から行方不明だった夫が、先日、白骨遺体として見つかり、死亡していたことが分かりました。
夫は自分名義の賃貸マンションを、夫が100%株主の会社に貸し、その会社が入居者へ転貸する形で運営していました。
夫が行方不明の間、入居者には賃料の振込先を私の口座に変えてもらっていました。しかし、その時点で夫が既に亡くなっていたことは全く知りませんでした。
その後、夫に多額の借金があることが判明し、私は相続放棄をしたいと思っています。
そこで、私が賃料の振込先を自分の口座に変更して受け取っていたことが、“相続を承認した”とみなされてしまうのか?
という点が心配です。
(A)■結論
今回のケースでは、あなたが賃料を受け取っていたことだけで「相続を承認した(単純承認した)」と判断される可能性は極めて低いと考えられます。
相続放棄は可能と考えられます。
理由を以下に分かりやすく説明します。
■1. なぜ「単純承認」になるのか心配なのか?
民法では、次の行為をすると「相続を承認した」とみなされてしまいます(民法921条)。
- 相続財産を 処分した とき
- 相続財産を 隠したり消費したりした とき
- 相続財産を 相続人として管理したり処分したりした とき
しかし、これには必ず
“相続する意思があることを前提に、相続財産を積極的に利用した”
というニュアンスが必要になります。
■2. 今回の賃料受け取りは「相続を承認した行為」に当たるか?
結論としては 当たりません。
理由は以下3点です。
① 夫が死亡していた事実を知らなかった
単純承認とみなされるには「相続する意思」が前提です。
しかし今回は、
- 夫は行方不明で死亡していたことを知らなかった
- あなたは「生存している夫の管理のために」賃料を受け取っただけ
という状況です。
死亡を知らずに管理していた場合は、単純承認にはなりません。
裁判例・実務でも一貫して
死亡を知らずにやむを得ず行った管理行為 → 単純承認にならない
とされています。
② 行為の目的が「相続財産の処分」ではなく“管理”だった
あなたが行ったのは
- 入居者に賃料振込先を変更してもらった
- マンションの賃料を管理した
という行為です。
これは、民法921条の「相続財産の処分」には該当しません。
しかも、行方不明の夫名義の財産を守るための 「保存行為(管理行為)」 であり、保存行為は単純承認とみなされません(民法921条ただし書き)。
③ 「利益のための必要処置」と評価される
行方不明の家族の財産を守るために最低限の管理を行うことは、
法律上 当然に認められた行為(保存行為) です。
賃料の振り込み先を変えたのも、あなた自身が家計の維持のためにやむを得ず行ったものと考えられ、行為自体も「処分」には該当しません。
■3. 実務上の扱い(相続放棄手続において)
家庭裁判所も、このような事例で相続放棄を否定することはありません。
家庭裁判所への申述書に次のように記載すれば十分です。
■ 記載例
- 夫は1年前から行方不明であった
- 生存を信じていたため賃料を管理した
- 死亡を全く知らず、相続の意思も無かった
- 死亡の事実を知ったのは○年○月○日
- その後すぐに相続放棄を検討した
この説明で問題なく受理されます。
■4. 注意点
相続放棄をする場合は
「死亡を知った日から3か月以内」 に申述する必要があります。
もし期間が過ぎてしまっている場合は
- 行方不明で死亡を知らなかった
- 死亡の事実を知ったのは最近
- その後すぐに手続きを検討した
という事情から “熟慮期間の起算点を後ろにずらす” ことが可能です。
■5. まとめ
✓ 賃料を受け取っただけ → 相続承認には当たらない
✓ 死亡を知らなかった事情 → 決定的に有利
✓ 行為は「保存行為」であり単純承認ではない
✓ 相続放棄は十分可能
✓ 3か月以内の申述だけ注意