(Q1)甲の妻が8市の病院に入院し、甲自身は遠洋漁業に従事しているため、子の養育をA市に住む姉に依頼しています。甲は数か月に1回帰港し、その際に姉のもとに滞在し、子の生活費を渡しています。このような場合、世帯の保護の実施責任はどのように考えるべきでしょうか?(Q2)出身世帯員が分散している場合、生活の本拠地や保護責任の所在はどのように判断されますか?
(A1)A市が、甲・妻・子の3人世帯について保護を実施する責任を負うと考えるのが適当です。
理由
家族は現在、別々の場所で生活しています。
- 甲:遠洋漁業の漁船上
- 妻:B市の病院に入院
- 子:A市に住む甲の姉のもとで生活
しかし、甲は数か月に1回帰港すると、A市の姉宅に滞在し、子の生活費を渡しています。このことから、甲と子との生計関係は続いており、姉に完全に引き取られたわけではありません。
また、甲には船上以外に安定した居住地がなく、妻も入院中です。そのため、家族の生活の中心、つまり**「生活の本拠」**は、子が現実に生活し、甲も帰港時に戻っているA市にあると判断されます。
世帯の認定
甲・妻・子は、居場所が別々であっても、次の事情から3人で一つの世帯として取り扱います。
- 甲が子の生活費を負担している
- 子を姉に預けているのは、妻の入院や甲の仕事によるもの
- 甲が帰港時に姉宅へ戻っている
- 家族としての生計関係が続いている
したがって、姉の世帯に子を組み入れるのではなく、原則として、甲・妻・子の3人を同一世帯と認定します。
結論
甲には陸上の固定した住居がなく、妻はB市に入院していますが、子がA市で生活し、甲も帰港のたびにA市の姉宅へ戻って生活費を渡しています。
このため、世帯の生活の本拠はA市にあると判断し、A市が甲・妻・子3人からなる世帯の保護の実施責任を負います。
つまり、妻が入院しているB市ではなく、子が生活しているA市の福祉事務所が担当するという考え方です。
(A2)出身世帯員が複数の地域に分かれて生活している場合は、住民票の住所だけで決めるのではなく、それぞれの人が実際にどこを生活の本拠としているかを確認します。
そのうえで、
- 分散した家族を今も同一世帯として扱うのか
- それぞれ別世帯として扱うのか
- どの福祉事務所が保護を担当するのか
を個別に判断します。
1.生活の本拠地の判断
生活の本拠地は、主に次の事情を総合して判断します。
- 実際に寝泊まりしている場所
- 生活用品や家財が置かれている場所
- 食事や家計を誰と一緒にしているか
- 家賃や光熱費を誰が負担しているか
- 郵便物の受取場所
- その場所で生活を続ける意思があるか
- 入院・施設入所・一時避難など、一時的な滞在ではないか
したがって、住民票が元の住所に残っていても、実際には別の場所で継続して生活していれば、その場所が生活の本拠地と判断されることがあります。
2.同一世帯か別世帯か
家族が別々の場所に住んでいる場合でも、直ちに別世帯になるとは限りません。
たとえば、生活費を送り合い、家計を一緒に管理し、近いうちに再び一緒に暮らす予定がある場合は、同一世帯と判断される可能性があります。
一方で、
- 長期間別々に暮らしている
- 家計が完全に分かれている
- お互いに生活費を負担していない
- それぞれ独立した生活を続けている
- 施設入所が長期化し、出身世帯との生計関係がなくなっている
といった場合は、別世帯として認定される可能性が高くなります。
生活保護では、原則として「同じ住居に住み、生計を一つにしている者」を同一世帯として扱いますが、実際の生活関係に応じて世帯分離や別世帯認定が行われます。
3.保護責任を負う福祉事務所
基本的には、それぞれの人の居住地を管轄する福祉事務所が保護の実施責任を負います。
例えば、父が神戸市、母と子が明石市でそれぞれ独立して生活している場合、別世帯と認定されれば、父は神戸市、母と子は明石市の福祉事務所が担当します。
居住地が明確でない人については、原則として、現在いる場所を管轄する福祉事務所が担当します。
4.施設入所者がいる場合
施設入所者については、単純に施設所在地の福祉事務所が担当するとは限りません。
入所前から生活保護を受けていた場合や、入所に伴って元の居住地を失った場合などは、一定の条件のもとで、入所前の居住地を管轄していた福祉事務所が引き続き担当します。
また、施設入所者の出身世帯が別の市へ転居しても、施設入所者についての担当福祉事務所が直ちに変わるとは限りません。
そのため、次のように担当が分かれる場合があります。
施設入所者:入所前の地域の福祉事務所
出身世帯:現在住んでいる地域の福祉事務所
厚生労働省の生活保護問答でも、施設入所者と出身世帯をなお同一世帯と認定する場合であっても、一つの世帯に対して二つの福祉事務所がそれぞれ保護を行う「実施機関の分散」が起こり得るとされています。
具体例
A市で家族3人が生活保護を受けていたところ、父がB市の施設へ入所し、母と子がC市へ転居したとします。
この場合は、
- 父と母子の家計が完全に分かれている
→ 父と母子を別世帯として認定する可能性が高い - 父の施設入所が一時的で、母子が生活費を管理している
→ 同一世帯と認定される可能性がある - 父の保護責任
→ 入所前のA市が引き続き担当する場合がある - 母子の保護責任
→ 現在居住するC市が担当する
という整理になります。
わかりやすくまとめると
「家族だから同じ世帯」「住民票があるからその市が担当」と機械的に決まるわけではありません。
実際の居住場所、家計、生計関係、別居期間、施設入所の経緯などを確認し、
- 世帯の認定は「生活実態」
- 保護責任は「居住地・現在地」と施設入所等の特例
によって判断されます。
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