(Q)当市周辺で工場建設が進み、地価が上昇している地域において、田畑50アールを所有する要保護世帯から保護申請があった場合、この世帯がその田畑を引き続き所有することを認めて差し支えないでしょうか?なお、この世帯は純農家であり、50アールの土地は当市の平均耕作面積と比較しても保有が認められる規模です。また、世帯主は「農家にとって田畑は生命にもかえがたいもの」と主張しています。
(A)この田畑は、50アールという面積だけを理由に当然に保有を認めることはできません。
確かに、
- 純農家で、実際に耕作している
- 地域の平均耕作面積と比べて適当な規模である
という点は、農地の保有を認める方向の事情です。
しかし、工場建設によって周辺の地価が上昇し、田畑として利用する価値よりも、売却した場合の価値が著しく高くなっている場合は、原則として保有を認めず、売却などによる資産活用を求めることになります。厚生労働省の実施要領でも、一定の条件を満たす田畑は保有を認める一方、「処分価値が利用価値に比して著しく大きい」場合は例外とされています。
判断のポイント
福祉事務所は、主に次の点を調査します。
1.農地としての利用価値
実際にどの程度の農業収入があるか、今後も耕作を続けることで世帯の自立に役立つかを確認します。
2.売却した場合の処分価値
工場用地や宅地への転用可能性、周辺の売買価格、買い手の有無などを確認します。
3.処分価値と利用価値の比較
農業を続けることによって得られる利益に比べ、売却代金が著しく高額になる場合は、生活保護法の資産活用の原則が優先されます。生活保護は、利用できる資産を最低生活の維持のために活用することを要件としているためです。
世帯主の気持ちはどう扱われるか
「農家にとって田畑は生命にもかえがたい」という気持ちは、世帯の事情として十分に聞き取る必要があります。
ただし、本人の愛着や家業を守りたいという希望だけで、高額な資産の保有を認めることは困難です。
生活保護では、感情的な価値ではなく、
- 農業経営に本当に必要か
- 保有することが自立に役立つか
- 売却価値がどの程度あるか
という客観的な事情によって判断されます。
すぐに売却できない場合
田畑の売却や農地転用に時間がかかり、その間の生活が成り立たない場合は、直ちに申請を却下するのではなく、先に生活保護を開始し、売却後に一定額を返還させる取扱いが考えられます。
不動産など、現金化に時間を要する資産については、保護を適用した後に売却し、生活保護法第63条に基づいて、受けた保護費の範囲内で返還を求める取扱いがあります。
具体例
田畑として利用した場合の年間収益が30万円程度である一方、工場用地などとして数千万円で売却できる可能性が高い場合には、処分価値が利用価値を著しく上回ると判断される可能性があります。
この場合は、
- 売却や転用の可能性を調査する
- 売却等による資産活用を求める
- 売却まで生活できない場合は保護を開始する
- 売却後、支給済み保護費について第63条返還を検討する
という流れになります。
まとめ
この世帯の田畑は、地域の平均耕作面積の範囲内で、現に農業に利用されているため、通常であれば保有が認められる可能性があります。
しかし、工場建設により地価が上昇し、売却価値が農地としての利用価値より著しく大きい場合は、保有を認めることは適当ではありません。
したがって、地価が上昇しているという事情だけで直ちに売却させるのではなく、実際の売却価格、転用可能性、農業収入、自立への効果などを調査したうえで、個別に判断することになります。
⇓